「なるほど。貴女も苦労されたのですね」



 ノアの話を静かに聞いていたミハイルは、一口紅茶を口に含んでからカップをテーブルに戻した。



「ノアさんがアリシア様のために必死になる理由と、彼女がニーナに毒を盛るはずがないと確信している理由がよくわかりました」


「お嬢様は、その後も命を粗末にする者が嫌いなのだと度々口にしていました。話では、わたくしと再会する少し前、高熱により生死の境をさまよわれたとか。それが原因かと」


「なるほど……」



 ミハイルは腕を組んで考え込む。

 その姿を見たノアは、彼が整った顔立ちをしていることに今さら気がつく。

 不覚にも見とれていると、彼は慎重に口を開いた。



「……元より僕も、アリシア様を疑っているわけではありません。ただ──」


「ただ?」


「ニーナの友人としての立場から言わせてもらうと、ニーナがそのような愚かな真似をするとも考え難いのです」



 ミハイルはニーナの友人、なのか。

 一瞬もやっとしたが、ニーナは身の程知らずにも第三王子にご執心なのだという話を思い出し、少し安心する。

 だが、何故自分がそれで安心しているのかと思い、またもやっとした。