今回、事実が明らかになるまでアリシアに謹慎するよう命じたのは、彼女の婚約者であるイルヴィスだった。


 ふざけるな、とノアは思った。イルヴィスはアリシアがあのメイドに毒を飲ませたと本気で考えているのか。しかし、アリシアの侍女に過ぎないノアが、第一王子にそのようなことが言えるわけもない。


 さらに不思議だったのは、アリシアが黙ってその謹慎を受け入れたことだ。
 自分はそんなことをしていないとハッキリ言えば良いのに。もどかしくてならない。


 それから、ノアにはもう一つ気がかりなことがあった。



「お嬢様。少し休憩なさいませんか?」



 ノアはテーブルにカップを置く。

 自分の目の前に置かれるカップを見たアリシアは、一瞬ビクリとした。



「安心してください。冷たいチョコレートラテです」


「ああ……」



 カップに入った液体の色を見て、ノアの言葉が事実だとわかったらしい。アリシアはゆっくりとした動作でカップを持ち上げ、一口だけ飲んだ。



「甘いわね」


「チョコレートですから」



 ノアに向かって返す微笑みが弱々しい。


 アリシアは今、誰が淹れたものかに関わらず、紅茶やハーブティーが飲めない。