「毒を飲まされ倒れていた。致死量でなかったのは良かったが、一昨日からずっと眠っていたんだ」



 狙い通り、医師はニーナに状況を説明し始めた。



「毒は即効性のものだった。倒れる直前に口にしたものに心当たりは?」


「……アリシア様に淹れていただいた、ハーブティーくらいですかね」



 考える素振りを見せつつ答える。

 医師は大きく息を吐き出して「やはりそれしかないか」と呟いた。


 どうやら彼はもうアリシアのことを疑っているらしい。ニーナはそう気づき、その疑いに追い討ちをかけるように、不安そうに尋ねた。



「まさか……アリシア様に毒を盛られたかもしれない、んですか?」



 信頼していた人に裏切られたのではないか。そう不安に思う様子をわかりやすく演出する。

 そんな演技などせずともアリシアが疑われるのは間違いがないだろうが、ここは『信頼していたのに、アリシアはニーナに害をなした』という印象を付けたい。


 ──そう、あの漫画のように。




 医務室の扉がノックされた。応えるよりも先に扉は開かれる。



「ニーナ」



 白銀に近いブロンドヘアに深い緑の瞳。普段は無気力そうに光を宿さないその目は、ニーナの姿をみとめると、安心したようにスっと細められた。