目が覚めて最初に視界に入ったのは、数回顔を合わせたことのある宮廷医が、カルテに何かを書き込んでいる姿だった。


 どれくらい眠っていたのだろう。口が乾いて上手く声が出ない。


 ニーナはどうにか上体を起こそうと試みる。眠っていた時間が長かったためか、節々が痛い。



「ん、気がついたか。丸二日眠っていたんだ。無理して体を動かさない方が良い」



 ニーナが目覚めたことに気がついた宮廷医が顔を上げた。



「あ……あ」


「声が出ないか。待ってろ、水を持ってくる」



 彼はそう言って立ち上がった。神経質そうな顔立ちとは不似合いな、どこか気だるげな歩き方は、どうやら癖らしい。



 持ってきてもらったグラス一杯の水を少量口に含む。

 ゆっくり飲み込むと一気に染み渡っていくような心地がして、身体が水を欲していたこたを実感する。



「ありがとう……ございます」



 まだ若干かすれている声で礼を言った。


 それから、どうして自分がこのような状況にあるのかわからない……と困っているような表情をつくる。

 毒を飲んで倒れた。実際は、その状況をきちんと理解している。