廊下を歩けばすれ違い、給湯室へ行けば掃除をしに現れる。ハーブ園へ向かう途中でさえ、植物を見ながらこっそり息抜きをしている姿を目にすることになる。



(ヒロインと悪役令嬢は、どうあがいても関わりを持つ運命なのかしら)



 意味もなくページをめくりながら思う。


 しょっちゅう顔を合わせる上、タチの悪いことに、ニーナはアリシアに気づくとキラキラと邪気のない笑顔を向けて挨拶をしてくる。そうされては無視をするわけにもいかず、その度少し立ち話をする羽目になるのだ。



 そんな日々を通して、アリシアは実在のニーナが漫画に出てくる通りの人物だという印象を受けた。


 黒髪は気味悪がられることが多いものの、容姿は人目を引きつけるほど可愛い。天然で鈍感そうな雰囲気に反して知性が高く、知恵と工夫により困難を自力で乗り越えることができる。
 常に笑顔を絶やさないながらも、時折見せる辛そうな表情に、周囲の人々は徐々に惹かれていくのだ。

 周りから敬遠されがちな悪役令嬢とはまさに正反対ともいえるキャラクターだ。



(別にあの子は悪い子じゃない。それはわかってるけどやっぱり関わりを持つのは不安だわ)



 アリシアがニーナへ嫌がらせをした黒幕に仕立てあげられないようにするためには、赤の他人でいることが一番だと思っていた。しかしその手はもう使えそうにない。