『アリシア・リアンノーズ。ニーナの命を危険にさらすような嫌がらせをあんたが指示したという証拠はそろっている』



 白銀に近いブロンドヘアの第三王子は、愛しの君を背で守るようにしながら、アリシアに向かってはっきりと告げた。いつもの無気力そうでぼんやりとした雰囲気はすっかりなりを潜めてる。


 守られている彼女は、少女と呼んでも差し支えない程に若く、人々から気味悪いと陰口を叩かれる黒髪を丁寧に編み込み、怖じけることなく晒している。

 顔立ちは綺麗というよりは可愛い感じで、その瞳には人を疑わない、正義感の色が宿っている。さすがは主人公(ヒロイン)といったところか。



『嘘ですよね、アリシア様。貴女はみんなに強く当たられるあたしに、優しくしてくれたんです』



 何の騒ぎだと集まった王宮の人間たちが見守る中、主人公ニーナは、アリシアの無実を訴えるような言葉を口にする。

 しかし、悪役令嬢アリシアは、ニーナに冷めた視線を浴びせると、美しいターコイズブルーの髪をかきあげ、唇を歪ませるように笑った。



『未来の王妃が、一人の庶民にすぎないメイドへ嫌がらせをしたという証拠、ですか。そんなものを集めるの、ずいぶん苦労なさったでしょう、デュラン殿下』