突然、ピアノのメロディーが止んだ。



「ん?」



 不審に思い、動きを止めて演奏者の方を振り返る。

 イルヴィスはじっとこちらを見つめていた。そして、意味ありげに笑みを浮かべると、立ち上がり、アリシアたちの方へ歩み寄って来た。



「ロベルト。お前もピアノは弾けたな」


「ええまあ。兄上のように上手くはありませんが」


「代わってくれ。私もアリシアと踊りたくなってきた」



 力強いながらも自然に、アリシアは抱き寄せられた。



(ち、近い)



 心臓が大きく跳ねる。この非日常な雰囲気にのまれているのだろうか、とアリシアは思う。自分もイルヴィスも、どこかいつもの具合と違う気がする。


 ロベルトが大袈裟にため息をついてから肩をすくめて見せた。



「兄上の婚約者をいつまでも独り占めしているわけにはいきませんからね」



 イルヴィスほどでないが、ロベルトも巧妙な演奏の腕前を見せた。


 すっかりダンスパーティーと化したお茶会は、さらに夜が更けても続けられた。