再び曲が流れ始めた。先程より若干ゆったりしている。

 アリシアはステップを踏むことに一生懸命で曲が終わるまで気がついていなかったが、いつからか周囲に踊っている人はいなくなっていた。皆の視線は例外なくイルヴィスとアリシアに向けられている。



「え、あれ?」



 アリシアがその様子に思わず戸惑いの声をもらした。その瞬間、周囲からわっと割れんばかりの拍手が起こった。

 助けを求めてイルヴィスを見ると、彼は動じた様子もなく涼しい顔で軽く手を上げる。



「紹介させてもらう。彼女は婚約者のアリシア・リアンノーズだ」



 イルヴィスの言葉を受け、周りは軽くどよめいた。



「おお、あのご令嬢が」


「さすがはあの王子のお眼鏡にかなった人だ。美しい」


「殿下と並ぶとすごく絵になるわ!」



 好意的な声がたくさん聞こえるのはありがたいが、正直戸惑いを隠せない。

 確かに、アリシアのことを婚約者としてお披露目するとは言っていたが、そのお披露目のしかたがイメージとだいぶ違う。もっと個人個人にひっそり挨拶に行くのだと思っていた。



(なのに、まさかこんな注目される形になるなんて……)