アリシアは目を瞑って考える。

 もし、前世の記憶を思い出さずに育っていたら、まさに漫画の『アリシア・リアンノーズ』だったかもしれない。でも、今のアリシアは良くも悪くも漫画のアリシアとだいぶイメージが離れている。



(でもまあ、いくら性格が漫画のアリシアと違うからといって、わたしがこれからあのストーリー通りの人生を辿らないという保証はないのだけど)



 現に、あのお茶会で大して話さなかったはずのアリシアを、第一王子は婚約者に選んだ。それはシナリオ通りに事が進んでいるという証拠なのではないだろうか。

 アリシアが今後、主人公に当たる人物に嫌がらせをしなくても、漫画の通り他のメイドたちが主人公をいじめ、その黒幕ということにされてしまう可能性もある。


 せめてもっと早い段階でこの世界のことに気づき、お茶会への参加を拒否するなどという対策をとれば、また変わっていたかもしれない。そう悔やまれてならなかった。


 しかし気が付かなかったのも仕方がなかった。前世の“彼女”は『黒髪メイドの恋愛事情』を全巻読みはしたが、そこまで熟読したわけではない。あらすじと大まかな設定を覚えていただけでも上等なのかもしれない。