イルヴィスの冷たい声に、サラの赤かった顔が、今度は可哀想なくらい青くなる。



「き、聞いてらしたんですか……ええっと、あれは……」


「あれは?」


「そ、その。少し楽しくお話を、ね?アリシアさん?」



 サラは圧力をかけるようにアリシアを睨みつける。



(うーん、ちょっと無理があるんじゃ?)



 だが否定しても後が面倒そうだ。



「はい。一人でいたわたしを気遣ってくださったのです」


「ほう……。まあ、我が婚約者殿がそう言うなら、そういうことにしておこう」



 イルヴィスが言うと、サラはほっと息を吐いた。

 イルヴィスは、今度はアリシアへ視線を移した。



「アリシア、待たせてすまなかったな」


「いえ、とんでもないです。こちらこそすぐ挨拶に伺わず申し訳ありませんでした」


「構わない。行こう、もうすぐ演奏が始まる。ダンスの練習、成果を見せてもらおうか」


「うっ……」


「ではまた、ローラン公爵令嬢」



 イルヴィスはサラにそれだけ言ってから、そっとアリシアの肩に手をまわし自分の方へ引き寄せた。

 ピッタリと寄り添うかたちになり、アリシアは想像していなかったほどの距離の近さに少しドキドキする。


 気になってそっとサラの顔を見ると、彼女は鬼のような形相でアリシアを睨みつけていた。