薬の調合などした覚えない。やったのはハーブティーのブレンドぐらいだ。その話からの飛躍だとすればひどすぎる。

 サラはなおも得意げに続ける。



「イルヴィス様に、自分を選ばせる薬でも盛ったのではなくて?そうでもなければ貴女が選ばれた説明がつかないわ」



 そんな薬が作れたらもう魔法使いの領域だ。


 面倒ではあるが、そろそろ反論しておこうか。そう思って口を開きかけたとき、サラの後ろに目がいった。



「あ──」


「何よ?」



 アリシアの視線が自分に向いていないことに気がついたサラが、腕を組んでゆっくり振り返る。



「ご無沙汰していたな、ローラン公爵令嬢」


「い、イルヴィス様っ」



 口元に笑みを浮かべつつ、目は少しも笑っていないイルヴィスが、まっすぐサラを見ている。



「ご、ご機嫌麗しゅう……」



 顔を真っ赤にしながらあたふたしているサラは、先ほどとうって変わり、完全に乙女の表情である。

 だが、イルヴィスの方は正反対だ。浮かべていた微笑みすら消え、冷ややかな目になっている。



「ところでローラン公爵令嬢。先ほどから聞いていれば、私の婚約者にずいぶんとを言っていたようだが」