「聞いていないのか?王家が主催する夜会だ。私の婚約者として貴女を紹介する、初の正式な場でもあるのだが……」


「聞いてない……ような……聞いたような……」



 そんな大切なこと、父から言われていないはずがない。だがどうにも思い出せない。

 またハーブの世話に夢中で、話半分に聞き流していたのかもしれない。



「……正直あまり期待できそうにないが、ダンスはどの程度できる?」


「授業で教えてもらった程度なら、たぶん……成績は良くなかったのですが……」



 だって仕方ないではないか。パーティーなどというものは、ほぼ参加したためしがない。ごく稀に参加したとしても、The壁の花だったのだから。

 それに、体力だけならば他の令嬢に勝っている自信はあるが、運動神経となれば別だ。ダンスの授業だって、実を言えば講師の足を踏んだ記憶しかない。



「その……この二週間、死ぬ気で努力いたします」



 アリシアは半分泣きそうになりながら、ガックリとうなだれた。



 楽しかった一日。しかし最後は大きな憂うつと共に締めくくられることとなったのだった。