「送ってもらって、ありがとうございます」



 寄り道のせいもあり、リアンノーズ邸に着いた頃には、空がすっかり赤くなっていた。

 アリシアは馬車から降りる前に改めてお礼を言った。



「長い時間付き合わせてしまったな」


「いえ、寄り道したのはわたしです。それに……」



 アリシアは一度言葉をきり、少し躊躇ってから続けた。



「何だか楽しくて、ずっとこの時間が続いて欲しい、なんて思ったしまったくらいですから」



 それを聞いたイルヴィスは、驚いたように一瞬目を見開いた。

 そしてその顔をすっと逸らした。



「あ、変なこと言ってごめんなさい」



 困らせてしまったのだろうか。アリシアはそう思い慌てて謝る。

 謝罪されたイルヴィスは、軽く髪をかきあげてから首をふった。



「いや……貴女にそう言ってもらえるが、少々意外で」


「そうですか?」


「正直、私と一緒に過ごしたところで、息の詰まる思いをするだけではないのかという不安はあった」


「……そんなこと」



 確かに、婚約者という関係ではあれど、彼はこの国の王子だ。二人きりでいて緊張がないというわけではない。

 だがそれより、イルヴィスがそんなことを気にしているということこそ、少々意外だ。