「すみません!お待たせしました」



 店の外にあるベンチで本を読んでいたイルヴィスを見つけ、慌てて駆け寄る。



「良いものは見つかったか?」


「はい、おかげさまで」



 イルヴィスは静かに本を閉じ、軽く空を仰いだ。

 今まで気が付かなかったが、日が傾き始めていた。



「今日はなかなか楽しかった」


「わたしもです」


「そこに馬車を待てせている。家まで送ろう」



 示された先には、確かに王宮付きの馬車が止まっていた。

 いつどうやって呼んだのかと思ったが、よく考えてみれば、イルヴィスともあろう人間がそう簡単に一人で出歩けるはずない。

 もしかしたら今日一日、遠くから護衛されていたのかもしれない。



(終わっちゃうのか……)



 アリシアは静かに息を吐き出す。

 楽しかった時間が終わる。そのことに、予想していた以上に残念がる自分がいた。

 一人で街を巡るのは好きだ。だが、イルヴィスと一緒だと、もっと楽しかった。



(また、こうやって彼と街を歩く機会はあるのかしら)



 どこか名残惜しい気持ちを胸の内に押し込めて、アリシアは、手を取られながらゆっくりと馬車に乗り込んだ。