今まで何度も、この足で歩いて回ったはずの街。

 なのに、隣で一緒に歩く人がいるというだけで、見える景色が全く違う。



「蜂蜜の専門店がある。珍しいな」


「本当!この辺りはよく来るのに知りませんでした」



 アリシアなら気にもとめず通り過ぎてしまう場所にある店の前で、イルヴィスは足を止めた。

 古めかしい建物の窓から、たくさんの蜂蜜の瓶が並んでいるのが見える。



「見てくるか?」


「はい!」



 驚いたことに、売られていた蜂蜜は、それぞれ色が違った。あるものはほとんど黒のようだったり、またあるものは水飴と大差ないほどに透明だったりする。


 ハーブティーの味を調節するのに、蜂蜜は重宝している。せっかくだからどれか買ってみよう。

 狭い店だったので、イルヴィスは外で待っているからゆっくり選ぶようにと言った。



(お言葉に甘えて、いろいろ見せてもらおう)



 並んている蜂蜜の種類は、ラズベリーの花や、リンゴの花など。ローズマリーやタイムといった、アリシアにはおなじみの名前もある。

 とれる花が違うと味も見た目もかなり違うようだ。

 たっぷりと時間をかけて、アリシアはオレンジの蜂蜜とラベンダーの蜂蜜を選んだ。