「……美味い」



 向かいに座るイルヴィスも、どうやら気に入ったようで、フォークを刺すたびボロボロ崩れるパイ生地に苦戦しながらも、手を休めず食べている。

 城での食事の時より、どこか生き生きして見える。



「どうかしたか?」



 少し見すぎてしまったらしい。イルヴィスに、不思議そうなな視線を向けられてしまった。  



「いいえ。美味しそうに食べるなあ、と思いまして」


「……こうやって街に出たのは久々だからな。浮かれているのかもしれない」



 アリシアに指摘されたイルヴィスは、少し照れくさそうに髪をいじりながら言った。


 アリシアはこれまでの付き合いで、イルヴィスが噂のように冷たい人物であるとは思っていない。きっと近寄り難いほどの美しい外見から生まれた噂なのだろう。

 だが、そんな噂を信じる人々も、今の彼を見ればその考えを改めるのではないか。



 カフェを後にしたアリシアたちは、その後は特に行き先を決めず歩いてみることにした。


 色とりどりのブーケを売る花屋や、遠くまで良い香りを漂わせるパン屋。細かく手のこんだレースを売る店には思わず感動してしまった。