グサリと心臓に、尖った何かが突き刺さった。

なんで、どうして。

半ば伏せられた切れ長の眼が悲しそうで、私はコクンと喉を鳴らした。

「彩、もうアイツの事は」

「やめてください!」

再び唇を寄せようとした圭吾さんの胸を両手で押しながら、私は顔を背けた。

「圭吾さん……酷いです」

涙声で私は叫んだ。

「彩、」

小刻みに圭吾さんがかぶりを振る。

どうして。どうして?!

花怜さんがいるのに。

これを知ったら、花怜さんはきっと悲しむ。

未だ見ぬ花怜さんの泣き顔が胸に浮かんで、私は圭吾さんを見上げた。

「悲しい思いをさせないで……花怜さんを、もっと大切にしてあげてください」

このキスが、いつかの凌央さんと立花さんのキスと重なり、胸がえぐられる思いがした。

その痛みが、何も知らない花怜さんにも牙を剥くのが耐えられない。

「花怜さんは圭吾さんにとって大切な人でしょう?なら、たとえ彼女が見ていなくても気付かなかったとしても、裏切らないであげてください」

圭吾さんが信じられないといった風に眼を見開く。

それから、彼の両手が力なく私から滑り落ちた。

もうこの場にいたくなかった。

花怜さんに酷いことをしてしまったという思いが辛くて、私は涙を止めることが出来なかった。