「あの、取り敢えず先にお風呂に入ります?今から準備しますね」

だって、これ以上グズグズ怒られたくなかったんだもの。

いや、助けてもらっておいてグズグズなんて表現はよくないけど、とにかく私はもう圭吾さんと険悪な雰囲気になるのは嫌で……。

少しでも雰囲気を良くしようとして圭吾さんを見上げて笑うと、彼は驚いたように一瞬眼を見開いた。

それから、

「よくもまあこの状況でヘラヘラ笑っていられるものだな。何が風呂だ。来い」

「……わっ」

圭吾さんが乱暴に私を抱き寄せた。

「圭吾さん?!」

がっしりした身体が私に密着して、思わず彼の名前を呼ぶ。

そんな私に圭吾さんは小さく呟いた。

「脱ごうとするなんて……裸婦のモデルになろうとするなんて、そんなにあの男がいいのか」

少しだけ身を起こして私を見た圭吾さんが苦し気に両目を細めた。

「どれだけ心配したと思ってるんだ」

「圭……」

最後まで呼べなかった。

傾いた圭吾さんの顔が近づいてきて、その唇が私の口を塞いだから。

柔らかくて熱い圭吾さんの唇に、鼓動が跳ね上がる。

何も出来ない私の唇を圭吾さんは離さず、角度を変えて更に深く包み込もうとする。

次第に芽生える罪の痛みが、私の全身を駆け巡った。

僅かに離れた唇の隙間から、圭吾さんが殆ど息だけで言う。

「彩……もうあの男を想うのはやめろ。どうせ結ばれない」