「な……なによ」

立花さんの声を圭吾さんがかき消す。

「とんだ夢見る少女なんだな、君は」

「その歳まで知らなかったのか?世の中ってのが不条理で溢れ返っていることを」

圭吾さんはスラックスのポケットに手を突っ込むと一歩部屋の中へと踏み込んだ。

「妬む前に自分のそのどす黒い根性でも正すんだな。じゃないと」

圭吾さんは立花さんの目の前まで歩を進めると至近距離から彼女を見下ろしてニヤリと笑った。

「男が君なんかを好きになるわけないだろう?」

硬直する立花さんの脇を通ると、圭吾さんは私に近づいて口を開いた。

「帰るぞ」

「あの、でも」

「ああそういえば」

圭吾さんは私から視線をそらせて再び立花さんに話しかけた。

「君の会社の社長は……この事をご存知なのかな?」

ギクリとしたように立花さんがこちらを振り返った。

「俺の婚約者……峯岸グループの令嬢を突き飛ばした上に服を脱がそうとした狼藉を」

みるみる立花さんの顔が蒼白に変わる。

「なんなら、今すぐ確認してもいいが」

「や、やめて……」

そんな彼女に圭吾さんは容赦なく次の言葉を放った。

「そういえば義理父は…オフィスの絵画を御社で発注しているらしいが……この件が明るみに出ると、間違いなく契約は解除だろうな」