恋愛ノスタルジー

なんの心構えも出来ていなくて、心細くて恐かった。

でも凌央さんの頼みなら断れない。

だって私は凌央さんのアシスタントだもの。

「早くしてよね。これは凌央が望んだことなんだから」

震える指先で、私はブラウスのボタンに手をかけた。

ボタンを一つ二つと外したのを確認すると、立花さんは踵を返して出入り口へと向かう。

その途中、彼女は吐き捨てるように続けた。

「金に守られて家柄に守られて、何の取り柄もないくせに大した努力もしてないクセに良いものを食べて良い暮らしをする。甘やかされて育ったせいで人の気持ちを踏みにじる。大嫌いよ!」

その時だった、ドアが勢いよく開いたのは。

立花さんが開けるよりも早く開いたドアの向こうを見て私は息を飲んだ。

「っ……!」

立ちはだかるその人物に、私よりも立花さんが大きく驚き、身体を仰け反らせる。

信じられない。

どうして?どうしてここに?!

開け放たれたドアで生まれた風が、ギルティオムの香りを運ぶ。

そしてその向こうに、何と圭吾さんが立っていたのだ。

僅かに息を乱し、これ以上ないと言ったような軽蔑の眼差しを立花さんに向けながら。

「嫌な予感がして来てみれば……これは一体どういう事だ?」

怒気を含んだ低い声で、圭吾さんは立花さんに言葉を放った。