恋愛ノスタルジー

あの時は様々なジャンルのシェフに料理の依頼をしていたみたいで人数も多く、全ての人の顔までは覚えていなかった。

立花さんはそんな私を苛立たしげに見つめている。

「凌央を好きで堪らないって顔しないでよ、汚らわしい。もうすぐ結婚する身で本当に汚らわしいわ」

胸を拳で殴られた気がした。

『汚らわしい』

なにも答えられないでいる私に、立花さんは尚も続けた。

サラリと彼女の癖のない髪が揺れる。

「私が凌央とキスをしてたの見たわよね?嘘はつきたくないから言うけど、私が無理矢理したのよ。だって私、彼を好きなんだもの。大学時代からずっとね。でも彼は特定の恋人なんか作らない。仕事や画が大切だから。でも諦めない。死ぬほど好きだから」

死ぬほど……好き……。

死ぬほど。

私にとっては衝撃的な言葉だった。

「……脱いで」

「……え?」

聞き間違いかと思った。

「脱いでって言ったのよ。早くしてよ」

脱ぐ?どうして。

硬直する私の前でゆっくりと腕を組むと、立花さんは唇の両端を引き上げた。

「これから生徒さんはデッサンするのよ。ラフのね」

……らふ……?

「あの、らふって何ですか?」

立花さんの形の良い唇から大きな溜め息が漏れた。

「ラフは裸婦よ。文字どおり裸の婦人」

思わずコクンと喉が動いた。