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それ以降の日々は、専ら食事作りと部屋の掃除、洗濯が私の主な仕事だった。

凌央さんは会社から帰るとアトリエに引きこもり、黙々と画を仕上げていく。

画に関して言えば、下描きを見ながらの製作に入ると、私に手伝えることは殆どない。

夕食は簡単なものでいいと言われているのでおにぎりを数個とスープを多めに作っておく。

「凌央さん、そろそろ帰りますね。休憩されますか?」

個展作品の製作開始から二週間が過ぎた頃のある日だった。

アトリエのドアをノックしてそっと声をかけると、凌央さんはカンヴァスから顔をあげて私に手招きをした。

「彩、ちょっとこっちに来てくれ」

「はい?」

アトリエの中に一歩入ると、すぐに油絵の具や石膏の匂いが鼻に飛び込んでくる。

「この画を見てくれ」

凌央さんが真顔で私を見た。

「どう思う?正直な感想が欲しいんだ」

……凌央さん……?

いつもと様子が違う。

出逢ってからの凌央さんは、いつも自信に満ち溢れていた。

それなのに、何故か今の彼は少し不安気だ。

その表情に不安を感じて見つめていると、凌央さんはジーンズのポケットに親指だけを引っかけ、僅かに唇を噛んでいた。

「お前の率直な感想が聞きたい」

その言葉に、なんだか鼓動が早くなる。