心配してくれているのか彼は僅かに眉を寄せていて、それを見た私は少し笑った。

「キスを見ちゃったあの日、本当にショックでした。でも……圭吾さんの言葉で私、思い直したんです。彼が誰を好きでもいいって」

私はライトを反射して光るワイングラスに視線を落としたまま、ポツリポツリと続けた。

「元々、私には想いを告げる気なんてありませんし」

少し視線を上げると、圭吾さんが苦し気な顔をしていた。

「あっ、念のために言っておきますけどこれは誰のせいでもないですよ?最初から決めてた事ですし。でも」

私は圭吾さんに負担をかけたくなくて精一杯笑った。

「圭吾さんは気にしないでくださいね。私、圭吾さんには幸せでいてもらいたいです。だからこの先も花怜さんと仲良くしていてください」

圭吾さんの動きが止まった。

いつもは切れ長の美しい眼が、驚きのあまり見開かれて丸くなっている。

「なんですか、そんなに驚いて。お互いに恋愛は自由にしようって話し合ったじゃないですか」

私がニコニコと笑うと、圭吾さんは我に返ったように瞬きをした。

「……彩、」

圭吾さんに気兼ねしてほしくない。世界をまたにかけて仕事をするのって、大変なプレッシャーだって知ってるもの。

だって父もそうだから。

「さあ、もっと食べてください!圭吾さんが沢山選んじゃったんですからね」

私が笑いながら少し睨むと、圭吾さんは漸く少し笑った。