***

「まだ一ヶ月でしょ?!圭吾さんも照れてるんじゃない?」

手の平に囲ったリモージュのカップに視線を落としたままの私に、短大時代の友人である美月がニコリともせずに言い放った。

「……違うのよ、美月」

三ヶ月前の婚約パーティーの夜、彼は私を見つめて甘く微笑んでいたのに。

なのに……。

今ではあの時の微笑みが演技だった事に、私は気付いてしまっている。

「は?違うって何が?」

「だから、彼は私を好きじゃないの。愛なんてないの。私といてもニコリともしないのよ?それどころかいつも不機嫌」

ランチの後の紅茶を楽しむには悲しい話だ。

すると言い終えた私に美月は顔を傾けて眉を寄せた。

「はあっ?!……あんた、だいぶヤバイわね」

「……え?」

意味が分からずに首をかしげると、美月は私を未知の生命体でも見るような眼で見つめた。

「あんた、半年前にお見合いした時に初めて夢川圭吾と会ったんでしょ?!で、私の反対押し切って婚約したんじゃないの」

「……そうだけど……」

だって、父の決めた相手と結婚する約束だし……。

幼い時から父にはこう言われてきた。

《彩。お前には望む全てのものを与えてやる。なに不自由なく最高の幸せを約束してやるからその代わりに、パパの決めた相手と結婚するんだよ、いいね》