ここ何年もの間、各部門の賞に該当者ナシが多発し、幻の賞と言われていたのを思い出した。

誠二叔父様は、昔から芸術を勉強していて、若い頃はイタリアの古い工房で画を学んでいた。

確か苦節十年にしてやっと頂けた賞だとインタビューで話していたっけ。

そんな難しい賞を、僅か15歳で……。

尊さんは凌央さんの背中を見つめながら、まるで自分の事のように得意気に続けた。

「絵画だけじゃないわ。凌央ちゃんはね、彫刻やオブジェ、芸術と名の付くものならなんだって最高の作品を創るの。起業にあたって一時期は画の表舞台から遠ざかってたけど、そのうちすぐに世界中から注目されるアーティストになるわ」

……分かる。だって、アトリエの中に無造作に置かれた画や彫刻も、本当に凄いもの。

漠然とそう考えていた私に、尊さんが声のトーンを落としてこう言った。

「あなた、泣くことになるわよ。彼は家庭なんてきっと持たないもの」

ビクッとした。

だって、心を見抜かれたから。

尊さんの言葉が矢のように飛んで胸に刺さる。

「どうして分かったの?とでも言いたげね」

何も言えないでいる私に、尊さんは浅く笑った。

その微笑みは何だか苦し気で、でも何処か誇らしげで、それを見た私は息を飲んだ。

「私も彼を好きだから……分かるのよ」

尊さんも、凌央さんが……。

「……私……」

……決めている。

私、決めているもの。

私は……ただ三ヶ月間そばにいるだけ。

それ以上は望まない。

「……大丈夫です。私は何も望みませんし、そばにいるのは三ヶ月だけですから」