……寝ちゃってる。

彼の膝の上の書類をそっとテーブルに置くと、私は圭吾さんを見つめた。

……綺麗な人だなあ。

涼しげで整ったその顔は冷たく見えがちだけど、(……まあ、私には本当に冷たいんだけど)こうして眠っていると何だかあどけない。

ふと、パパの言葉が蘇った。

『先代の社長に《研究、開発段階からの輸出入》を強く勧めたのは圭吾君なんだよ。凄いところに目をつける男だよ、彼は。当事まだ若干二十歳の若者だったとは思えないよ』

圭吾さんって、きっと私が想像もつかないほど凄い人なんだろうな。

仕事量も凄く多くて、早く帰ってくる日なんてたまにしかないもの。

そう思うと、妙に私は納得ができた。

……そりゃあ、こんな頭脳明晰で世界をまたにかけて仕事をしているような人が、私みたいな人間と結婚しなきゃならないなんてとんだ不幸で、そりゃニコニコなんて出来ないよね。

『圭吾君は実にいい青年だ。きっとお前を幸せにしてくれるよ』

……私はペタンとソファの前に座ると、思わず首を横に振った。

違うの。違うのよ、パパ。

彼が幸せにしたいのは私じゃなくて花怜さんなの。

「……ごめんね、圭吾さん」

眠っている彼を見つめたまま、私は小さく声をかけた。

「峰岸の家に生まれただけでなんの取り柄もない私と結婚しなきゃならなくなって本当にごめんね。あなたのような人が私の旦那様になるなんてもったいない。いつもイライラさせてしまってごめん。私、三ヶ月後にあなたの奥さんになったら、頑張ります。出来るだけあなたが穏やかに暮らせるように」