『ありがとな、彩。また明日な』

ふわふわ、と胸がこそばい。

凌央さんとの会話を頭の中で再現すると、自然と口元がほころぶ。



『アキがワイン好きなんだ。で、毎年ヴォージョレーを置いていくんだが、俺は正直ワインよりハイボール派なんだ』

『あ、じゃあハイボールに変えましょう!私も飲みたいです』

『じゃあ、今度こそマドラー使うから出してくれ』

『あはははは!硝子棒の件はアキさんには言わないで下さいよ?!』

『何でだよ。硝子棒をマドラーと間違えるなんて画に携わる人間の中には皆無だからこの話、かなり喜ぶぞアイツ』

『ダメです!』



ああ、楽しかったなあ。

幸せの余韻に浸りながら、水を飲もうとキッチンへ向かう。

ついでに、圭吾さんにオヤスミを言っておこう。

さっきリビングの方で物音がしたから、きっと帰ってきてるんだと思う。

「……圭吾さん?……」

囁くように声をかけながらリビングのドアを開けると、圭吾さんはソファに座っていた。

……上着を着たまま微動だにしないその姿勢に、彼が眠ってしまっているのを感じる。

「圭吾さん」

もう一度小さく声をかけて正面にまわると、彼は俯き加減でやっぱり目を閉じていた。