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社長室の隣にある圭吾さんのプライベートルームは、シャワールームが完備されたゆったりとした部屋だった。

黒を基調としたシンプルなそこには、小さなテーブルと冷蔵庫、ベッドが置いてあり、落ち着く感じがする。

「国際事業部の議事録は何時に仕上がるんだ?」

「午後八時を予定しております」 

「以前の報告書は投資、売上げ、利益に関して全てが甘かった。中でも水インフラの改善報告は出資額がかさんでいるわりに何も進んでいなかったじゃないか」

「申し訳ございません!」

厳しい圭吾さんの声が、広い社長室の端にあるプライベートルームにまで響く。

「俺が納得できない結果なら、事業部長の更迭も辞さない」

「しゃ、社長……!」

私は秘書である黒須さんに通されたこの部屋で、聞こえてくる圭吾さんの声をじっと聞いた。

……怖……。

「ベトナムの農地開発の件も然りだ」

「その件に関しましては、二時間後に添付メールが送られてくる予定です」

……ダメ。やっぱり会わずに帰ろう。

だって会ったところでどうせ不機嫌だろうし、会話だって広がらないし……。

テンションさがって雑貨のチョイスに影響が出るのも嫌だ。

……もういいや。帰っちゃえ。

意を決すると私は立ち上がった。

それからフカフカとした絨毯を小走りで進み、ドアに近付く。