ほんとになんて……なんて不器用なの。

「……もしも取り返しがつかなくなってたらどうするつもりだったんですか?たとえば凌央さんを結婚したいくらい好きになって家を出たりとか」

「社長に就任してまだ一年足らずの俺は、想像を越えた激務に追われてた。けど、ここを切り抜けられたら二度と離さないつもりだった。それに絶対、奪う気でいた」

圭吾さんの切れ長の眼が切な気に瞬く。

「誰が相手でも奪うつもりだった。……簡単だと思ってたんだ。けど実際は……平常心は保てないしイライラするしで最悪だった」

そこまで言うと今度は自嘲的に笑い、圭吾さんは瞳を伏せた。

「彩が自分以外の男に好意を持っているのが、こんなにも苦しいなんて想定外だった」

……圭吾さん……。

圭吾さんが私の手をそっと握った。

「妬けて妬けて……死ぬかと思った」

思い出すようなその顔にドキッと鼓動が跳ねて、思わず握られた手を引っ込めようとすると、圭吾さんは素早くそれを握り直した。

「ダメだ。離さないしもう逃がさないって決めたんだ」

何も言えないでいる私を、圭吾さんが力を入れて引き寄せた。

「あ、」

たちまち体勢が崩れ、圭吾さんの胸に転がり込んでしまう。

そんな私を彼はしっかりと受け止めて続けた。

「いつだったか……ここで眠ってた俺に彩が言った言葉、覚えてるか?」

「……え?私が圭吾さんにですか?」

何だっただろう。

まるで思い出せず、無意識に眉が寄る。