エンドロールが流れてもしばらく席を立てなかった。
 涙が溢れて後から後から頬を伝った。

 エンドロールが終わると「行けますか?」と手を差し出された。
 顔が見れずに手を重ねて外に出た。

「評判通りとてもいい映画でしたね。
 友恵さんのお陰でいいものを見られました。」

 目を赤くしている桜川さんも隣で泣いていたのが分かった。
 上映中はお互いにハンカチを握りしめ、映画の世界に入り込んでいた。

「私こそ。見に来れて良かったです。
 それに感動できて良かった……。
 ありがとうございます。
 連れてきてくれて……。」

 いくら桜川さんに「感動しなくても責めない」と言われても1人では見に行けなかった。
 それに文句を言ったけれど、家を出る前に映画はどうかと聞かれたら避けたかもしれない。

「僕は映画自体、何年も……。
 大学の頃、友達と行ったのが最後かなぁ。」

 何年というより何十年……。

「だって奥様とは………。」

「お見合いでしたとは言いましたよね?
 ですから……そんなものなのですよ。」

 釈然としないまま、それ以上は聞けなかった。

 ただ、とても悲しそうで、道の真ん中であろうとも抱きしめたいと思った。
 でも悲しそうなのは一瞬で、次の瞬間には明るかったので抱きしめる機会は失ってしまった。