「最後の弁当は自分で作りたくて、これでもがんばったんですよ。料理なんてしたことなくって散々なお弁当でしたけどね」

ああ、そうだったんだね……。

夏芽ちゃんも納得したのか「そっか」と晴れやかにほほ笑んだ。

「でもあの日のお弁当は本当においしかったよ。また作ってほしいな」

河村さんの顔がゆがみ、頬に一瞬で伝った涙が、長い年月彼女を見守ってきたことを表していた。

心地良い沈黙が、家族を包んでいるように思えた。

食べ終わった三人を戸の外で見送るときも、穏やかな雰囲気は続いていた。

「じゃあまたね」

片手を上げた夏芽ちゃんに、

「はい」

笑顔でうなずいた。

「お世話になりました」

頭を下げたお母さんと河村さんに同じように礼を返す。

歩き出そうとした夏芽ちゃんが、ふと振りかえったかと思うと、

「あのさ」

と、ためらいがちに口にした。

「はい」

「これから……少し来る回数減っちゃうかも」

照れたように言ったのでうれしくて私はうなずいた。

「はい。いつでもお待ちしていますから」

あの公園でまたこのおにぎりを食べられる日がくるといいな。

そのときには、三人で笑い合っている姿ならうれしい。

「今日が、みなさんにとって・新しい一日・でありますように」

心からそう伝えると、新しい家族になる三人がにっこりと笑みを返してくれた。



ゴールデンウィークが終わると、野菜を洗う水の温度もさほど冷たく感じなくなる。

五月晴れの空の遠くにまだ飾られたままの大きなこいのぼりが見えた。

ナムがそれをベンチに座って不思議そうに見ている。

「あれは食べられないんだよ」

野菜を入れたカゴを手に教えると、大きなあくびをしてからナムは目を閉じた。

「やほ」

声に振り向くと夏芽ちゃんが歩いてくるところ。

「今日は自転車じゃないんですね」

「お母さんに車でそこまで送ってもらったんだ」

にこやかに言うと、ナムの横に腰をおろしてその頭をなでる。

私はまださわらせてもらえていないのに、少しうらやましい。

「ご家族のみなさんはお元気ですか?」

あれから数日おきの来店に減った夏芽ちゃんは、前のように明るい表情を取り戻していた。

「元気も元気。今日は有休を取ってふたりでデートだってさ。誘われたけど、さすがに邪魔したくないでしょ」

「なるほど」