「開店ギリギリセーフじゃん。間に合わなかったら怒られるとこだよね」

「そうそう。あの人ほんと短気だから」

そう言ってふたりでクスクス笑っていると、

「聞こえてるぞ」

中からぴしゃりと言われてしまった。

スキップでもしているみたいに上下に跳ねながら店内に入った夏芽ちゃんは、

「雄ちゃんおはよ」

と挨拶して、右端の席に座る。

「その呼びかたはやめろ、って言ってるはずだが」

渋い顔の雄也にも夏芽ちゃんは動じない。

「だって店長って感じしないもん。いいじゃん、雄ちゃんで。てか、最近じゃ他のお客さんもそう呼んでるらしいじゃん」

「やめろ」

ふたりの掛け合いが漫才みたいで毎朝笑わせてもらっている。竹かごを雄也に渡すと手を洗ってお茶を用意する。

お湯の温度は七十度、茶葉からきちんと淹れて三分も蒸すので時間がかかるのだ。これを毎回するのだから、ほんとカウンターだけのお店で良かった。まぁ、手間をかけた分、香りも味も本当においしいのだけれど。今も、ふわっといい香りが生まれて空気に溶けてゆく。

「はい、お茶です」

湯呑を置く。

「ありがと」

と答えてから夏芽ちゃんは雄也に、

「マスター、いつもの」

なんて冗談を言っている。

「なんだそれ。うちはメニューはない、って何回も─」

「はいはい。時間ないんだから急いでよ」

ぴしゃりと遮ると、夏芽ちゃんは平然とお茶を飲みだした。

この店ではメニューはなく、提供される朝ごはんは雄也が毎朝決めている。実際、私自身も最初の食事が出るまで全貌はわからないことが多い。聞いても雄也は答えないので、お客さんも出てきてからのお楽しみってこと。

「ったく、だから子供は嫌いだ」

と、ぶつぶつ言っている雄也に、

「なにをすればいい?」

と、厨房に入って尋ねた。今朝のメニューでわかるのは碓井えんどうを使用することくらい。

「碓井えんどうを洗って」

ひとりごとのように指示を出してくる雄也に、

「はい」

と答えて水で洗う。この辺は井戸水ではないけれど、まだびっくりするくらい水は冷たかった。どれくらい洗えばよいのかわからずに、ひたすら水にさらしていると、

「もういい」

と、言われ蛇口を閉じた。こういうのも勉強なのかもね。

「はい」