「たとえ、悲しい出来事があったとしても、うちの朝ごはんを食べて、昨日をリセットしてほしいんだ。悲しい出来事は人の心を縛る。朝を迎えても昨日から続く苦しみを引きずるやつもいる」

「うん……」

それはなんとなくわかる気がした。気持ちを切り替える方法なんて、自分でもわからない私だから。

「だけど、朝は誰にでも訪れる。そんな人たちに、温かい朝ごはんを食べて、新しい一日を過ごしてほしい。昨日の悲しみや悩みはここに置いて行って、また一からやり直してほしい。ここでリセットをする手伝いをしたいんだよ。そういう思いで作った店だ」

「料理はどれも温かいものだったよね?」

私の質問に雄也は「そうだ」と答えた。

「朝から体の冷えるものは出さない。すべてできたての熱々の料理を提供したいからこそ、客は一度に四組しかとらない」

今朝も左端の席を陣取っているナムは動く気配がないから、実質三組が限度だろう。

「人は弱い、と思う。ゆえに道に迷ったり立ち止まったりしてしまう」

昨日の自分を思い出して、少し気持ちが重くなった。

あのとき、この店に来なければ、今朝こんなふうに前へ進めただろうか。

いや、きっと今でも現実を受け入れられずに悩んでいたことだろう。

「ならまちのはずれにあるこの店で俺は、迷ったり道からはずれた人たちの背中を後ろから押してやりたいんだ。重い荷物をその肩からおろしてやりたい」

もう私は、彼の目を見ていた。

「でも……」

「昨日も言ったろ。温かい食事を食べて、悩みをここに置いていってほしいんだよ」

雄也の話す言葉はどうしてこんなにストレートに胸に響くんだろう。

それは私も雄也に背中を押されて歩き出したからだろうか。

「それって、・人生の応援団・みたいなもの?」

そう言うと、雄也はおかしそうに目を細める。

「たしかにそうかもしれん。俺は、その人にとっての今日が新しい一日であってほしいっていう気持ちを、料理を通じて応援しているのかもな」

私も笑っていた。

迷いがひとつの答えに向かって進むのを感じた。

「俺はぶっきらぼうで愛想もない。それでもよければ、一緒に働かないか?」

「どうして、私……なの?」

たった一度会っただけで、なんにも知らない私なんかをどうして?

「さあな」

「ぶ」

あっけなく言う雄也にずっこけそうになった。