まるでこの食事自体が光を放っているかのように明るく見える。

「すごくおいしそう。いただきます」

手を合わせて箸を手に取ってから気づく。

「あの……。これって値段は?」

「まかない食だから気にするな。味見の意味もあるしな」

「働くとはまだ言ってないよ」

そう言いながらも、あまりに食欲を刺激する香りにノックアウト寸前。

早く食べたい……。

「じゃあ、実際にお客さんはいくら払うの?」

昨日は支払わずじまいだったから値段を知る由もなかったし。すごく高くても納得できるほどの味だったから。

雄也はチラッと私を見てから、

「五百円」

そっけなく言った。

「そんなに安いんだ。毎日同じ値段で?」

「まあな」

へぇ……。意外に良心的な価格なんだな。

「その代わり、メニューは『日替わり朝食』のみだけどな」

「そうなんだ」

湯気の奥にあるつみれ団子に箸を入れると、さらに小さな湯気が生まれる。口に入れた瞬間においしい、と脳が判断した。

「おいしいね、これ」

「あたりまえだ」

それでもうれしそうな顔を一瞬したのを見逃さなかった。なんだかかわいいな。

って、ほだされてどうするのよ。とにかく考えないと。

雄也の書いた紙を見る限りでは給料はそこそこ。勤務時間は六時から午後三時まで。

残業は一切なし。

まぁ、早起きは得意だし土日は定休日で休み、さらには月に一回好きに休めるらしいから条件はいいかも。

「でも、私、料理そんな詳しくないよ?」

最後の味噌汁を飲み終わって口にした私。もう答えを言っているようなものだ。

お茶を入れ替えてくれながら雄也は、ふっと鼻から息を吐いた。

「最初からできるやつなんていない。ここで勉強すればいい」

なんでもないような言いかたが迷っている心を押した。

「……うん」

うなずく私に雄也は筆ペンを差し出してくる。

「え?」

「サインをする前に、この店のことを知ってほしい」

受け取らない私に、雄也は筆ペンを私の目の前に置いた。

「この店は、朝ごはんしか提供しない店だ。朝ごはんは、新しい一日を生きてゆくための、はじまりのごはんだから」

「新しい一日を生きてゆくための、はじまりのごはん?」

雄也は軽くうなずいてから私を見た。