月と地球と彼女と僕と。

「ごめん、変なこと言ったよね。忘れてーーーうわっ」


「変じゃ……ない、です。変じゃないから。」


僕は半月の引力も借りてありったけの力でアサコさんを抱きしめた。だってまたあの泣きそうな顔をするから。


「僕が……こう、したいのは……ア、サコさんが……ゆ、唯一で、すから。」


思うように口が回らない。


それに、僕の早合点だったらどうしよう。つい勢いでこんなことしてるけどーーーーでも振りほどかれないって事はいいんだよ、ね?このままでも。


「く、苦しい……」


僕の腕の中で呻くようにアサコさんの声がした。


「うわっ、すぃませんっ‼」


振りほどかれない、じゃなくて苦しくて振りほどけなかっただけなのか……


慌てて両手を離すと、


「だ、大丈夫……だから。」


アサコさんの華奢な腕が僕の体にスルリと巻き付いた。


「アサコ……さん?」


だから僕も恐る恐る再びアサコさんを抱きしめた。今度は少し力を抜いてね。


「私ってズルいよね。大事なことから逃げてばかり。それで君にいつも甘えてる。大学時代の先輩後輩ってだけなのにね。しかも私の方が歳上なのに……」


僕の腕の中にすっぽり収まって弱々しく言うアサコさんになんだか戸惑ってしまうけど……、だけど、ちゃんと伝えなきゃ。きっと、今、ちゃんと伝えなきゃ僕とアサコさんの関係ってずっと曖昧なままになりそうで。


少しだけ息を整えると、


「だけで、いいんですか?」


ゆっくり聞き取りやすい声で言った。


「えっ、だけでって……?」


「だから、アサコさんは先輩と後輩ってだけでいいんですか?僕は嫌です。アサコさんとこの先も先輩後輩ってだけなのは。」


僅かにアサコさんの腕に力が入ったのが分かった。アサコさんの体温がしっかりと伝わってくる。その確かな温もりに勇気を貰って言葉を続ける。


「僕の自惚れだったらすいません。謝ります。だけど、アサコさんも同じ思いでいてくれてるんじゃないかなって今、僕は思ってます。僕はアサコさんの唯一になりたい。いや、僕だけじゃなくてお互いに唯一の存在になりあいたい。アサコさんは、違うの?」


言えたぁ………。


……………



…………



そして、この沈黙、怖っ。