その時から何も思わなかった訳では無い。
最初は、私にも抵抗があった。


人を殺す事なんてできるはずが無い。
そう思っていた。


でも、案外慣れる物で。
それから半年経った頃には、もうなにも思わなくなっていた。


半年で、それだけの依頼があり、それだけの人を殺めたという事だ。


慣れとは本当に恐ろしい。


そんな私が、唯一癒される物。


それは、歴史。
特に、江戸時代末期の幕末。


壬生の狼と呼ばれた、新撰組。
彼らの生き様は美しい。


己の誠を貫き通す事が、どれ程難しいか。
私には想像も出来ない。


隊を脱走し、切腹した山南 敬助。
志半ばで病に倒れた沖田 総司。


他にも色々あるが、彼らが死んでいなければ歴史はきっと変わっていた。


新撰組がバラバラに散ってしまう事も、局長の近藤 勇が斬首される事も、原田 左之助と永倉 新八が隊を抜ける事も、全てが無かっただろう。


私は新撰組が好きだから、こう思い込んでしまっているのかもしれない。


それでもいい。
もしも。


もしも私が、あの時代へ行けたなら。


絶対に、歴史を変えてみせる。
新撰組のあんな最期を、見たくない。


「……その言葉、しかと受け取った。」


言葉と共に、私の前に影が落ちた。
ゆっくりと視線を上げる。


ニヤリと笑いながら、私を見下ろすように立っている男。


男が着ているものは、和服。
白い着流しに、黄金の羽織を合わせた豪華で華やかな物。


「私は時を操る神。お前に問う。」


時を操る神と名乗った男は、真剣な顔をして私の目を見た。


「……その言葉に、偽りはないな?」


私が幕末に行ったら歴史を変えると言ったこと?それなら。


「当たり前でしょう。新撰組に、あんな終わり方させない。絶対に。歴史なんて、変えてやるわ。」


私の言葉を聞いた男は、安心したように微笑むと私に提案した。


「では、お前に提案する。幕末へ行き、新撰組の未来を変えてこい。」


"変えてこい"って、それは命令ですよ。
提案ではありません。


まぁ、喜んで行くけどね。
ただ、今のままの私が行っても何も出来ないだろう。なにか、欲しい。


「あぁ、そうそう。提案を受けてくれるのなら、お前が欲しいものを三つやろう。何でも良い、お前が心から望む物をやる。」


そう来たか。
ならば、もちろん断る理由は無い。


私の返事は決まっている。


「もちろん、行くわ。」