「とりあえず風呂入って温めろよ。このままじゃ風邪ひく」
西崎はそう言って私の手に躊躇なく触れた。掴まれている手首は西崎が握るとドクンドクンと脈を打ってうるさい。
西崎にとって特別な女の子はひとりだけで、この優しさだって私のことをなんとも思ってないからできる。
私なんてその他大勢のひとりで、家を貸してと言ってきたのもただ単に都合が良かっただけのこと。
そこに特別な感情なんて一切なくて、飛び越えることができない分厚い壁が西崎との間にはある。
……ああ、まただ。
また黒くてイヤな気持ち。
「なにしてんだよ、風呂場に行くぞ」
動かない私の手を西崎がさらに強く引っ張って、今度は逆に私が西崎の手を引き返した。そして……。
「ねえ、桃香ちゃん浮気してるよ」
きっと今目の前に鏡があったら私は私を直視できないくらいひどい顔をしてると思う。
確信なんてないのに最低だよ。自分でも引く。
それでも言葉が止まらない。



