グリーンリバー近辺の街や村は何ら問題がなかった。

何故かというとーーコハクがこの近辺で魔物を狩っては研究したり人には言えないようなことを試したりしているからだ。
魔物はそれを恐れて隠れている。

それをラスに言うと怒られるので黙っているが…コハクはもうずっとある研究を続けている。


「おかしいな、こんなに魔物が出ないなんてことあるか…?」


「だーかーらー、オレが居るからだろ。…ああ、禁断症状が…!」


馬上で突然胸を押さえて苦しみだしたコハクに驚いたリロイが慌てて馬を寄せて落ちないようにコハクの肩を掴む。


「お、おい、大丈夫か!?」


「うぅ…っ、オレの天使ちゃんに触らないと死んでしまう…!」


白々しくなったリロイが掴んでいた肩を押して馬から落とそうとしたが、コハクはひらりと一回転して華麗に着地すると、脇目も振らず馬車に駆け寄ってドアを開けた。


「オレの天使!ちょっと…触らして…」


「やだ気持ち悪い」


「褒め言葉をありがとう!お邪魔しまーす」


うとうとしていたラスの隣に強引に座ってさらに膝に乗せてご満悦の魔王。

強引でヘンタイなのはもう変えようがないので、元々マイペースで怒ることが少ないラスは、窓から外を見た。


「リロイは?」


「今目の前に居る人と話をしましょう!」


「コーとはいつでも話せるでしょ?リロイと喧嘩は駄目だよ?」


「しねえって。なあチビ、今夜は前みたく野営するか?それともどっかの街で…」


「野営!私まだキノコの種類とか覚えてるよっ」


きらきらした目で喜ぶラスに大満足の魔王は、ラスを抱っこしたまま馬車から降りると、呆れ顔のリロイに顎を引いて命令した。


「今夜は野営だからな。お前は食材狩って来い」


「分かったよ。…ラスのリクエストだね?」


「うんっ」


ーーラスの影に憑いた魔王を倒すための旅の間に何度も野営をした。

その魔王がとうとう実体を伴ってしまったことは後悔しているが、ラスと恋に落ちた以上、どうしようもできなかった。


「楽しそうだね、ラス」


「うんっ。旅って大好きっ」


それならいい。

君が笑っていられるなら。