魔王と王女の物語 【短編集】

今まで歩くという概念を持たなかったアマンダは、いつの間に用意していたのか、コハクから淡いオレンジ色のワンピースを投げられて岩礁の影で着替えた。


…どこからどう見えても、人だ。


とても嬉しくて、今すぐ王子に会いに行こうと立ち上がろうとしたがーー足が動かない。

軽いパニックになって慌てていると、コハクが荷物を抱えるようにしてアマンダを肩に担いだ。


「…っ!」


文句を言おうにも…声が出ない。

これが呪いの代償なのかと青ざめたがもう背に腹はかえられない。


生きるか死ぬかーー人を愛した代償は大きかったが、このまま愛する者と出会えず生きていくよりはまし。


「さあて、どうすっかなー」


このままディノに会わせるのがベストだがーーこんなにお膳立てしてやったのだから、後は己のみでどうやるか…それを見たい。


「ちょっと歩く練習しようぜ。見られねえように魔法かけてやるから納得いくまでやれよ」


よいしょと声をかけて砂浜にお 下ろし、側に座ったコハクはまごついているアマンダを観察し続ける。


人魚を人にーー前例はない。

文献に残してもいいレベルのため余すことなく観察して文字に残さなければ。


最後の魔法使いとして後世に残るものをこの手で。

悲願とも言える偉業を成し遂げることができるかもしれない可能性にコハクの目も真剣なものになる。


「まず足の指から動かしてみろ。神経はちゃんと通ってるんだから動くはずだぜ」


言われた通りに親指に意識を集中すると、微かに動いた。
そのまま次は人差し指、中指、薬指、小指………動く。


ぱあっと顔が輝いたアマンダにコハクが目を細める。


ディノがアマンダを受け入れなくても受け入れても、興味はない。

興味があるのは結果だけ。