魔王と王女の物語 【短編集】

城の東には鬱蒼とした森があり、ディノはそこを中心に魔物を捜索しようと提案してきた。


「ねえコー、後で人魚さんに会える?」


「そだな、2、3匹やったら海沿い散歩がてら見に行くか」


総勢20人ほどの集団はラス以外皆男で、夜にも映えるラスの金の髪やこの辺では見かけることのできない超絶美少女っぷりにでれっと鼻の下を伸ばしてコハクを不機嫌にさせていた。


「おいこらオレの天使ちゃんを見んな!」


「…?コー、なにか…聴こえない?」


静かな夜に、少し高い声の…歌のようなものが聴こえた。

すると皆が怯えて海側に目をやり、口々に噂を語り出した。


「最近海側から魔物が来るらしい。人手が足りなくて海側までは行けないし船も足りないし、それにあの歌声…頭の芯が痺れちまう」


「コー、人魚さんだよね?」


「ああ間違いねえ。チビ、そっと列から離れようぜ」


最後尾を歩いていたコハクが歩幅を狭くして列から離れると、それを予想していたリロイは何も言わず逆にディノを森の奥に誘導する。


「あの…陛下、あの真っ黒な男は一体…」


「ああ、今は害がないので安心してください」


「今は?」


「とんだ悪戯をして困らせていましたが、今は改心している…はずです」


正面から鹿の身体に頭がふたつある魔物が突進して来る。
瞬時に剣を抜いたリロイが斜めに薙いで両断すると歓声が湧き、気を引き締めつつ魔王が何かしでかしはしないかとはらはらしていた。


「ラスが側にいるから大丈夫だと思うけどあいつ…妙なことしたら斬ってやる」


今も昔もコハクのたかが外れてしまえば恐ろしいことが起きるような気がしてならない。


ラスがストッパーなのだ。

では…ラスがもし側からいなくなったら魔王はどうなるのだろうか?


「…ぞっとする」


首を振って集中して正面を見据えた。