魔王と王女の物語 【短編集】

一国の王を迎えたディナーはなんとも豪華なものだった。

ただディノとリロイは魔物討伐の直前だったため食が進まず、コハクとラスは呑気にゆっくり食事を楽しむ。


「さあて、飯も食ったし、王子様についてきますかー」


「私は王子ではありませんが…」


「王子様みたいにかっこいいってことだよ」


ラスに容姿を褒められて照れるディノに一発嫌味でもとコハクが口を開きかけた時、ダイニングルームの扉がそっと開いて見知らぬ女が顔を出した。


「ディノ様」


「ああエマ、もう私は行くから扉を固く閉めて開けないように」


「はい。無事にお帰りを」


褐色の長い髪に守ってやりたくなるような気弱そうな儚い美少女ーーエマは、垂れた目をコハクとラスに向けて固まった。


…はたから見れば美少女と美青年。

男の方はミステリアスで世にも珍しい赤い瞳が印象的で、女の方はとびきり可愛らしく緑の鮮やかな瞳が美しい。

コハクと目が合ったエマは固まってしまい、謎の女が登場したことでラスははっとして椅子から立ち上がった。


「あの…」


「ああ失礼しました。彼女は私の幼馴染のエマです」


「初めまして…」


ディノとエマが並んで立つととてもお似合いのカップルに見える。

人魚贔屓のラスがコハクの袖を握る。
コハクはフォークで手遊びをして考え事をしていたが、目が合ったまま固まっているエマににやりと笑いかけて席を立つと、ラスの肩を抱いて通りすがりざまリロイの頭を小突いた。


「食う気ねえならもう行くぞ」


「分かってる。ディノ、準備ができたら玄関で合流しよう」


ダイニングルームを出て一旦あてがわれた部屋に引き返しながらラスは何度もコハクを見上げていた。


「チビの言いたいことは分かってるぜ。あの女が王子様とデキてるかもって言いたいんだろ?」


「うん。違うといいんだけど」


「女の方には気がありそうだったけどな。ま、とにかく人魚に会いに行こう」


夜が更けた。

近隣の村民と共に魔物討伐が始まった。