魔王と王女の物語 【短編集】

魔物は基本夜に出没するため、コハクはディノから書庫の場所を聞き出すとラスとふたりで膨大な本が収まる本棚を眺めていた。


「コー、何か探してるの?」


「ん?んー、そだな、探してるけど見つからなかったら別にそれでもいいし」


難しい言い回しをするコハクに首を傾げたラスは、低い位置に収まっている絵本を何冊か手に取って書庫の真ん中にあるソファに座った。


「これ面白そう。読んでもいい?」


「どうぞどうぞ!じゃあオレは…」


魔術関連の本は今や禁書となり、表沙汰には存在していない。

コハクはそんな禁書を求めてあることを探し求めていたが、こんな所にあるわけもなく、“伝説の生き物”と書かれた本を取ってラスの隣に座った。


「えーと、人魚人魚…。男女の比率は女が圧倒的に多く、その美声と美貌で男を惑わせて海中に引きずり込み、食う。性格は獰猛で短気。ふうん、ああ見えて凶暴なんだな」


「あの人魚さんもそうなのかな。王子様ってディノのことだよね?」


「そだな、なーんか隠してるし庇おうとしてんのがアリアリなんだよ。嘘つくの下手すぎだぜ」


ーー本を読んでいるときのコハクはとても真面目に見える。

その横顔はきれいで真っ赤なルビーのような瞳は美しく、ラスは絵本を閉じるとコハクの頰にキスをした。


「!!な、なに、どうした!?チビからチューしてくれるなんて!」


「真面目なコーも好き。最近子供たちがいつも居てふたりでゆっくりする時間がなかったでしょ?コーも甘えていいんだよ」


…コハクの瞳がやわらかく揺らぐ。

自分のことを考えてくれるラスの気持ちが本当に嬉しくて、瞼にキスをすると抱きついてきたラスについむらむら。


「やべえ、爆発しそう…!」


「はい終わり。コー、魔物退治頑張ろうねっ」


腕の中からするっと抜けだしてにこにこしているラスににやっと笑う魔王。


「こんにゃろ、魔性の女め!大好きだ!」


俄然やる気にみなぎり、指を鳴らした。