魔王と王女の物語 【短編集】

「ま、何百年も生きてりゃ飽きるに決まってんだろ。最終的にはみんなそこに行き着くぜ」


爆ぜる炎がコハクの真っ赤な瞳をさらに彩る。
火を挟んで向かい側に居たリロイは、まだコハクの中に何かが煮え滾っているように見えてじわりと緊張を覚えた。


「僕なら正しいことをやる。人を助けたり…」


「姿が変わらねえから長いことひとつの場所には居ることはできねえ。各地を渡り歩いて人のために?…魂が腐り切るとそんな考えには及ばねえな」


自ら魂が腐っていると告白したコハクだったがーー隣で眠っているラスの寝顔を見る眼差しは愛に溢れている。

もし…

もしラスに呪いをかけて、恋に落ちなければ…この男は本当に世界を滅ぼしたかもしれない。


「お前はやっばり消しておいた方が良かったかもしれないな」


「心配すんな。オレだって研究は続けてる」


ーー何かおかしなことを言った気がする…

コハク自身もそれに気付いたのか舌打ちしてリロイに毛布を投げつけた。


「寝ろ。そしてそのまま魔物に食われてしまえ」


「…お前…おかしなことを考えてるんじゃないだろうな」


警戒心を露わにするリロイを嘲笑うように口角を吊り上げて笑んだコハクは、ごろんと横になってラスを腕の中に抱きしめた。


「チビが居る限りは大丈夫だ。もし居なくなったら……早く寝ろっつってんだろが」


これ以上の会話は不要だと言わんばかりに目を閉じたコハクの本心ーー何かを隠している。

この旅の間に聞き出さなければ…


その後リロイは朝まで火の番をして、コハクの真意を模索していた。