梓は戸惑い気味に、そう答えた。
そんな梓とは裏腹に、滋は持ち前の笑顔を見せ、カウンターに戻った。
「こんにちは」
すると、普段は全く人と関わろうとしない知由が、自ら梓の前の席に座った。
一年前は年寄りのような声色を気にして誰とも話そうとしなかった知由がこうも変わったのは、鈴のような可愛らしい声に変わったからだ。
しかし性格はそう変わらなくて、友達の人数は相変わらずだが。
「……こんにちは」
微笑んでいる知由に、梓は思わず見とれてしまった。
「今日はどうしてここに?」
「数年前、いきなり会社を辞めた新田さんが、ここで働いているという情報が耳に入って、つい……」
梓は恥ずかしくなったのか、頬を染めながら俯いた。
「それで、お店についてネットで調べてみたんです。そしたら、ある噂を知って……」
すると、知由の目の色が変わった。
梓の言おうとしていることを、なんとなく予想したらしい。
「探偵さんに、依頼できますか?」
「はい。では、閉店後にお話を伺いますね」
コーヒーを運んできた雪兎が、優しい笑顔でそう答えた。
「いえ、今で大丈夫です」



