「今からそこに行けないか?」
「わかった」
滋は立ち上がり、腰エプロンを外した。
店に少し顔を出して雪兎に今から出ることを伝えると、裏口から出て車に乗った。
知由は黙って助手席に乗る。
「……夏芽が僕を探しているなんて、思ってもみなかった」
運転しながらそう呟いた。
知由は呆れたようにため息をつく。
「それだけ、お前は大切に思われているということだ。長い時間一緒にいたら、大切に思うのは当然だがな」
「……みさきちゃんはわかってるの? 誰に大切にされているか」
「ウサギやウサギの親だな。ついでにお前らもか?」
知由はいたずらっぽく口角を上げた。
滋は敵わないと言わんばかりに苦笑した。
「みさきちゃんでもわかってるのに、なんで俺、わかんなかったんだろ」
「自分の都合のいいように考えやすいのが人間だ。どれだけ相手のことを理解しているつもりでも、実際は三割程度しか理解出来ていないのだ。言葉を使ったとしても、五割だな」
知由がきっぱりと言い切ると、滋は反応出来なかった。
まるで、六十歳越えの人に言われているように錯覚してしまう。
「みさきちゃん、本当に子供? 九歳の言うこととは思えないんだけど」
「どこをどう見ても子供だろう」
「背丈だけだよ。容姿は可愛いって言うより、綺麗のほうが当てはまるし、何より賢すぎる」



