「樹君……」 発せられたあたしの声は、弱々しかった。 「樹君は今、なにをしてるの?」 完全なひとりごとだった。 この問いに答えてくれる人なんていないと思っていた。 だけど…… 「今?どうしても菜緒ちゃんと話したくて、必死に探したんだよ?」 大好きなその声に震え上がった。 そして、恐る恐る横を見る。 すると、黒いベンチコートを着た樹君が立っていた。 さっきはスタジアムで、豆ほどに小さく見えた樹君、観客の視線をひとりじめした樹君だった。