「――――晃さんは諏訪さんの噂、知ってますか?」


 あれから一週間程過ぎた頃だった。丁度お昼時で、お客様も店員もみんなランチへ行ったり休憩している時間帯。一時的にゆとりが出来るそんな時に、さっき出勤してきた海莉ちゃんがレジにいた私にそんな事を言ってきた。

 しばらく諏訪さんには会っていない。だから不意に出て来た彼の名前に、少しドキリとしてしまった。


「噂……?」


 なんだろう? 諏訪さんの噂なんて、いつもたくさん耳に入るけど。

 どこそこのお店にいたとか、店舗にいたとか。何処かの店舗の人が狙ってるとか、かっこいいとか優しいとか、楽しいとか。その大半は、諏訪さんのファンや海莉ちゃんたちからのものだ。

 でも今日は、そういう事ではないみたいだ。海莉ちゃんはレジで隣に立っていた私に顔を寄せ、こそっと内緒話しするように小声で言った。


「諏訪さん、彼女が出来たみたいですよ!」

「ええっ?!」


 思わず大きな声が出てしまい、慌てて両手で口を押えた。

 今までも、諏訪さんの恋愛関係の噂は聞いていた。誰かに告白されたとかそういうの。だけど…………

 口から手を離し、彼女と同じように少し声を潜めて聞き返す。


「み、海莉ちゃん、本当?!」

「本当みたいですよ。目撃者もいますから」


 目撃者……

 もしかして、だけど。この前、牛丼屋に行ったりゲームセンターに行ったのを、誰かに見られたんだろうか。だとしたら、噂の彼女は私だ。