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「ばいばい誠!また明日ねー!」
「うん、塾頑張ってね。ばいばい。」
1日、また1日、着々と日は過ぎ、告白を受けてから1ヶ月程が経った頃だった。
誠の中で、まだ答えは決まらなかった。
好きかどうかもわからない相手と付き合うなんてたまったものじゃないし、そんなことをすれば翔里を本当に好きな人に失礼だ。
もう断ってしまおうか、と考えつつ駅に入り改札を抜けホームへ上がると、またあの日のように1人の少年が椅子に座っていた。
「……あ。」
「…八木さん。久しぶり。」
「おっお久しぶりです。」
「試合、お疲れ様。活躍してたって柳原から聞いた。」
「りみ先輩が…ありがとうございます。」
「うん。…どうかした?なんか元気ないよ。」
「……あの、本当に、私のこと好きなんですか?」
「…うん、好きだよ。だから告白したんだけど、伝わってなかった?」
「いや…えっと、私、勉強と部活と恋愛とか、全部できるタイプじゃなくて…。それに、鹿島先輩のことを好きかどうかもまだわからなくて。
そんな私が中途半端な気持ちでお付き合いするわけにはいかないんじゃないかと思ってて…。えっとだからその…。」
「俺も、全部できる自信ないよ。部活は引退したけど、受験生だし。恋愛なんて二の次。
だから、八木さんの頭の片隅に俺の存在があってくれるだけでいいと思ってる。
俺のことなんて優先順位の最後でいい。それでもダメ?」
一重の大きな瞳が寂しげに誠を見つめた。
誠は胸の奥が締め付けられるような感覚に陥って、''断る''という選択肢が頭から薄れていく気がした。
この人なら、大丈夫かもしれない。
何が大丈夫なんだろう?わからないけど、この人のそばに居たい。隣に座りたい。
頭が真っ白になって、それでも考えることは目の前にいる翔里のことばかりだった。
ホームにアナウンスが流れ、電車が近づく音が聞こえる。
早く、早く言わないと____。
「っ私でよければ…お願いします!!」