「なんだ、そうでもないじゃん。」
「佐倉さんってさ…。」
「あの子やばい子だよね…。」
人だかりの中の女子がコソコソと呟いた言葉は、聞こえないように言っているようだが丸聞こえだ。
その言葉が成海を傷つけることになるなんて、彼女達はちっとも思わないのだろうか。
「…希美、先にクラス帰って。」
「えっ?あぁ、うん!また昼練で!」
「まこちゃん…どしたの?」
「成海も帰って。」
「えっ、う、うん…。」
誠は希美と成海を彼女達のクラスへと帰し、群れる女子に近づいた。
「あのさぁ、聞こえてないとでも思ってんの?」
「や、八木さん?」
「なんで成海が居るのに目の前でそんなこと言うの?
目の前でコソコソ言われて嫌な気持ちになることわかってるよね?」
「そ、それは…。」
「全部成海が悪いみたいに言うけど、成海を選んだのは小木先輩だよ?
自分の彼女を悪いように言われて、小木先輩がいい思いすると思う?
悪口言うんだったら成海の居ない所で言いなよ。そしたら成海も聞かずに済むし、傷つかないんだしさ。
わかったら早く帰ってくれないかな?
あと成海に嫌がらせとかもしないでね。」
息をつく間も無く一息に、誠は全ての思いを吐き出した。
言われた女子達は呆気に取られ、返す言葉もなく、とぼとぼとクラスへ戻っていった。
クラスの前には人1人居なくなり、誠はなんだかスッキリした気分だった。
誠が教室へ入ると、廊下での騒ぎを聞いていた女子が一斉に誠を囲んだ。
「すごいね八木ちゃん。あの子達結構目立つ感じだったから、みんな声かけられなくて…。」
「そうなんだ。他クラスのことあんまりわからないからさ、あはは。」
「やっぱ八木ちゃんかっこいい!」
「男子より勇敢だよね〜!」
そう言って彼女達は男子の方へ視線を移し、ニヤリと口角を上げる。
視線を感じ取った男子達は反論する様子もなく肩を落とした。
「そんなことないよ。」
当たり前のことをしたまでだ。
なんとなく心がスカッとして、心のモヤモヤとしたものが少し軽くなった。

