「八木さんあっち方面なの?家。」

「あ、はい。鹿島先輩は?」

「俺は反対方向。じゃあ、真逆かー。」


心がきゅっとした。
その理由は誠にもわからなかったのだが、なぜか途端に寂しくなってしまった。

だいぶ前に成海は言っていた、

『相手の言葉や仕草に、心が変に締め付けられたり顔が緩みそうになったら、それは相手にときめいてるってこと!』

と。誠はその時点ではかなり疑っていたのだが、今の胸の痛みはどうも成海の言っていたことと一致しているようだった。


そんなことを考えている内に、翔里側のホームに電車到着のアナウンスが流れた。


「電車きた。じゃ、今度の予選頑張って。」

「あ、はい。ありがとうございます。さようなら。」


電車が近づき強い風が吹き込んで、誠は思わず目を瞑った。
目を開けると、誠に背を向けたはずの翔里がまだこちらを向いて、じっと誠の目を見つめていた。



「鹿島先輩?どうかしました?」









「…好きだ。」


誠は、自分の耳に入った声を疑った。


「え?」

「好き、八木さんのこと。」

「っえ。」

「試合が終わったらでいい。俺のそばにいてほしいんだけど。」

「それ、どういう。」

「返事は試合終わってからでいいから。じゃあね。」

「ま、待っ___。」


言い終わらない内に翔里は電車に乗って行ってしまった。


「好き?え?なに…好きって…。」


顔どころでなく体まで熱い。
心がきゅっとした、思わず顔が緩みそうになった。



「ときめいてるって、こと…?」




突然の告白は、誠をひどく混乱させた。
今まで体験したことのない胸の痛みが襲った。
心臓の鼓動は聞こえるほどに速く、今にも倒れてしまいそうだった。


その日、誠は帰りの電車を一本逃した。